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columnNo.6自力救済の禁止

今回は、弁護士法人日本橋さくら法律事務所の高橋康範弁護士が「自力救済禁止の原則」について、お話しします。あまり聞き慣れない言葉であるとは思いますが、不動産賃貸の場面では、しばしば問題となることがあります。

退去

自力救済禁止の原則とは

「自力救済禁止の原則」は、権利者であっても、国家の定めた手続き(裁判等)をせずに、自ら実力を行使して権利を救済(実現)することは禁止される、という原則になります。 例えば、賃料の不払い等を理由に、賃貸借契約が解除された場合、その後、賃借人が建物を使い続けることは、不法占有となります。そのため、賃貸人は、賃借人に対し、本件建物から退去を求める「権利」、不法占拠期間の賃料相当額の損害賠償を求める「権利」などを有することになります。

賃貸人としては、約束を守らない賃借人には、解除後、直ぐにでも建物から出て行って欲しいと思うのではないでしょうか。しかし、権利者である賃貸人が、不法に占有している賃借人を裁判手続きせずに、強制的に部屋から退去させたり、賃借人が留守の間に鍵を交換し、建物に入れないようにしたりすることは、「自力救済」にあたるものとし、原則として、禁止されています。

これに違反した場合は、賃貸人に不法行為が成立し、賃借人から逆に損害賠償請求を受ける可能性があります。また、賃借人の所有物を無断で処分したり、建物内への立ち入りの態様によっては、刑事罰(住居侵入罪・器物損壊罪)に処せられる可能性もあります。

賃貸人としては、「権利」を有していたとしても、裁判手続きに則って、賃借人を退去させる必要があるということです。

賃貸借契約書に記載してあっても自力救済は認められない

ちなみに、賃貸借契約書を見ていますと、しばしば、「契約解除後は、賃貸人の居室内への立ち入りを認める」「賃借人は、居室内の残置動産について賃貸人が処分することを認める」「賃貸人は、賃借人の無断退去が確認できた場合には、鍵を交換することができる」などといった条項が定められている場合があります。

このような条項が取り決められている場合、賃借人も上記条項に納得して契約をしているため、賃貸人が自力救済することも許されるように思えます。しかし、多くの裁判例では、上記条項については、公序良俗に反し無効であると判断し、賃貸人による自力救済行為は違法と評価しています。すなわち、「自力救済禁止の原則」は、法治国家の大原則であるため、契約書に定めがあるだけでは、認められるものではないということです。

賃貸契約書

例外的に自力救済が認められるケース

過去の裁判例の中では、例外的に自力救済を認めるものもありますが、特殊な事情が重なっている場合が多いかと思います。この点、最高裁判所は、「私力の行使(注:自力救済と同義)は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続きによったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で例外的に許されるものと解することを妨げない」と判示しています(最判昭和40年12月7日民集19巻9号2101頁)(注:は筆者が加筆したもの)。

この最高裁判所の判決文からも分かるように、法律は、ごく限られた場合にしか自力救済を認めておらず、裁判手続きをせずに、安易に自分の権利を実現することには、非常に高いリスクが伴うものと考えられるのです。

最後になりますが、「急いては事を仕損じる」という故事もあります。賃貸借契約上のトラブルが生じた場合には、自力で解決を図る前に、まずは、法律の専門家に相談するのがよいでしょう。

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