【vol.61】フロー型からストック型へ 住宅市場の転換に向けた試金石「安心R住宅」とは?
2018年12月20日

住宅市場の転換に向けた取り組みが進んでいます。
現在、日本国内の新設住宅着工統計は、100万戸弱で推移しているのに対し、既存住宅(中古住宅)の流通戸数は、約15~17万戸という状況です。
全住宅流通量(新築着工と既存流通の合計)に占める、既存住宅の流通シェアは約15%となっており、欧米諸国に比べれば6分の1程度と、かなり低い水準になっています。
住宅ストック数が世帯数を上回り、今後更なる人口減少が見込まれる中、空き家問題に注目が集まる現在の日本。
海外に倣っていいものを作り、きちんと手入れして、長く使う社会に移行する必要があるでしょう。
物理的な住宅ストックがあるのにもかかわらず、住み替えの受け皿になっていないという現実を変えること、つまり良質な既存住宅を安心して売買できるよう、既存住宅の流通を活性化させることが重視されています。

そのため、国土交通省(以下、国交省)は2013年から2015年にかけて、既存住宅・リフォーム市場の拡大・活性化に向けた基本的な方針や取組課題を共有することを目的に、不動産取引実務・金融実務の関係者が、率直かつ自由な意見交換を実施する場として、中古住宅市場活性化ラウンドテーブルを開きました。
その中では、① 建物評価の改善と市場への定着、② 良質な住宅ストックの形成とその流通を促進するための環境整備、③ 中古住宅市場活性化に資する金融面の取組み、④ 戸建て賃貸住宅市場の活性化、⑤ 地域政策との連携などが取り上げられました。
「安心R住宅」の目的
2017年に、こうした流れの中から生まれたのが、安心R住宅(特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度)です。
ここでいうRとは、Reuse(リユース:再利用)、Reform(リフォーム:改良)、Renovation(リノベーション:再生)を指しており、既存住宅における「不安」「汚い」「状態などがよくわからない」というイメージを払拭し、消費者が「住みたい」「買いたい」という既存住宅を選択できるよう、国交省が必要な要件を満たした事業者団体に標章の使用を許可するというものです。
要件の内容は細かく定義されており、耐震性・構造上の不具合や雨漏り等から、建築時の情報や省エネルギーに関する情報、共用部分の管理に関わる情報まで様々です。

既存住宅の広告に「安心R住宅」の標章を使用するためには、下記の流れが必要となります。
- ① 国交省が、「安心R住宅」の標章、及びそれを使用できる既存住宅の要件を設定する。その上で、標章の使用を希望する事業者の団体を審査・登録し、標章の使用を許諾する。
- ② 事業者団体は、リフォームの基準及び標章の使用について事業者が守るべきルールを設定し、団体の構成員である事業者の指導・監督を行なう。
- ③ 事業者は、要件に適合した住宅について、団体の基準やルールに則って広告時に標章を使用できる。
「安心R住宅」による、ストック型への転換
2018年4月、全日本不動産協会を皮切りに「安心R住宅」の標章使用が開始されました。
さらに、国交省は「安心R住宅」の制度創設だけでなく、普及拡大に向けた手段を複数講じています。
具体的には、2017年12月に決定した税制改革大綱で買取再販で扱われる住宅の取得等に係る特例措置として、安心R住宅については敷地部分まで対象を拡大しています。
税制面の負担を減らすことで円滑な流通を促す狙いです。

また、長期優良住宅化リフォーム推進事業では、安心R住宅の登録団体を事前公募・採択して助成枠を確保するといいます。
この他にも、補助金政策など、国交省が各種制度を駆使して安心R住宅を普及させようとする本気の姿勢が伺えることから、今後、安心R住宅の標章を掲げた既存住宅と、それを利用する消費者が増えていくかもしれません。
日本の住宅市場は、新しい住宅を作り続け、消費し続けるフロー型から、今あるものを有効利用するストック型に転換できるのでしょうか。
安心R住宅の普及に期待がかかります。