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columnNo.6民事信託でしかできないこと
①「自益信託」

前回は、財産をあげたい人を受益者とする信託についてお話させて頂きましたが、今回は、委託者自身が信託財産から得られる収益を取得する(受益者となる)信託についてお話させて頂きます。

また、委託者自身が受益者となった場合の信託不動産の活用手段のひとつである「金融機関からの融資」を受ける際の注意点についてもお話させて頂きます。

金融機関からの融資

自益信託

民事信託の活用シーンとして、高齢者が所有する賃貸用マンションやアパートなどの収益物件を子や孫に信託する、という事例があります。

高齢になると賃貸建物の管理や修繕など、アパートのオーナー様の負担も大きくなってきます。また、認知症等によって意思能力が低下したり失われたりすると、修繕や建替えのための契約行為ができなくなってしまう恐れもあります。できれば、子や孫に任せたいところです。

しかし一方で、今後の生活のこともありますから、賃料等の収益は、この先も自分が受取れるようにしておきたいところ。そうなると贈与はできません。贈与すると賃料収入も贈与を受けた人に移転してしまうからです。
また、贈与税もかかってしまいます。

そこで、登場するのが「自益信託」です。
受託者を子や孫、収益不動産を信託財産として信託を設定します。これで資産運用や管理を子や孫に任せることができます。そして、委託者(自分)を受益者としておけば、アパート経営による賃料等の収益は受益者である自分に残すことができます。このような信託を「自益信託」と言います。

また、自益信託では、税務上、受益者(兼委託者)が所有者とみなされるので、実質所有権は無かったものとして贈与税は発生しません

図解

信託設定前に、金融機関との事前の打合せを

ほとんどの場合、アパートや賃貸マンションなどの収益物件を建てるときには、金融機関からお金を借りて建築していると思います。そして、その債務を担保するために、建築した収益物件に抵当権等の担保権が設定されていると思います。

信託を設定すると、形式上は所有権が委託者から受託者に移転することになりますが、金融機関との金銭消費貸借契約や担保権設定契約において、所有権を移転することが禁止されている場合があります。この点を確認せずに信託を設定してしまうと、最悪の場合、金融機関から融資約定違反と言われて一括返済を求められる可能性もありますので、必ず事前に打合せをするようにしましょう

また、信託の設定時に、債務について特に何も定めなければ、もともとの債務者である委託者のもとにそのまま債務が残ります。しかしこうなると、貸した側の金融機関としては少々不都合があります。不動産の所有者と債務者が異なると、返済が滞った場合に、任意売却などの回収手段が取りづらくなるからです。

このため金融機関によっては、信託財産をもって負担する債務(信託財産責任負担債務と言います。)とする旨を定めるように求められることがあります。

信託財産責任負担債務とする具体的な方法は、まず、信託設定時に「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権にかかる債務を信託財産責任負担債務とする旨」を定めます。さらに、債権者である金融機関の承諾のもと、受託者が委託者から債務を引き受ける契約をします。
これによって当該債務を信託財産責任負担債務とすることができます。

信託設定後に受託者が借入れをする場合

信託を設定した後、大規模修繕や建替えのための資金を調達するために、信託財産を担保として金融機関から借入れをする必要が生じることもあるでしょう。

この場合にもやはり、事前に金融機関と打合せをして信託を設計する必要があります。信託の内容に、受託者の権限として信託財産を担保に借入れをすることができる旨が明記されていなければなりません。

具体的にどんなことを定める必要があるかは、金融機関によって異なりますから、後々借入れをする予定がある場合には、借り入れる予定の金融機関としっかり打ち合わせた上で信託を設定しましょう
なお、民事信託が注目されるようになってからまだ年月が浅いこともあり、受託者に対する融資を実施している金融機関は、非常に限られているのが現状です。

信託の設定を検討するときは、必ず詳しい専門家に相談することをお薦めします。

次回は、『民事信託でしかできないこと「② 跡継ぎ遺贈」』をご紹介したいと思います。

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