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columnNo.8民事信託の落とし穴
①「信託の目的がダメな事例」

信託の心臓部分。それが信託の「目的」です。この信託の目的を正しく定めることがとても重要です。ここでは信託の目的に関する落し穴を説明致します。

信託の目的は何か

信託には必ずその目的を定めなければなりません。目的があるから信託するのであって、目的のない信託は有り得ません。受託者は、定められた目的の達成のために信託事務を行ない、その目的にそぐわない行為はしてはならない、という拘束を受けます。信託の目的は、受託者の行動の指針であり、信託の根幹を成すものですから、これがいい加減だとうまくいかなかったり、最悪の場合、信託自体が無効となってたりしてしまいます。

委託者が信託によって何を目指しているのか、その意図が受託者をはじめとする関係当事者に分かるように定めることが必要です。

信託

信託の目的は明確に定める

例えば、信託の目的を「信託財産を管理・処分することを目的とする」と定めた場合、一見、「信託財産の管理・処分」という目的が定められているように見えますが、管理・処分はあくまで方法であって、それだけでは目的とは言えません。管理・処分を何のために、どういう方針でするのかが分かりませんし、どんな場合に受益者に給付をするのかも分かりません。これでは受託者はどのように信託事務を遂行すればよいのか分からないのです。

民事信託を組成する動機の多くは、受益者の安定した生活の確保であろうと思います。この場合の信託の目的は、最低限「信託財産を管理・処分し、受益者の安定した生活・介護・療養等に必要な資金を給付して幸福な生活を確保することを目的とする」等と記載すべきでしょう。ここまで定めてあれば、受託者は、この目的に従い、受益者の生活や介護、幸福な生活の確保を目的として管理・処分をし、受益者の生活や療養のために信託財産を給付すればよいということが分かります。

信託財産の管理・処分

受託者だけが利益を得る目的の信託はダメ!

「もっぱら受託者の利益を図る目的」の信託はできないものとされています(信託法第2条1項)。信託は、財産に対し管理処分する権利と利益を受ける権利とを分けることにその意味があります。信託の目的を専ら受託者の利益を図るものにした場合、管理処分も受託者が行ない、その利益も同じく受託者が受けることとなり、つまり単純に財産を所有しているのと変わりがありません。それでは信託の意味がなくなってしまうのです。

なお、「専ら受託者の利益を図る目的」かどうかは、信託設定時に定めた「信託の目的」の文言によって判断されるのではなく、その信託全体の実質によって判断されます。形式的な「信託の目的」上は、適切な内容が定められていたとしても、実際の経済的利益を受託者のみが受けているような信託は認められません。

実質的な目的が脱法の信託はダメ!

信託法9条には、「法令によりある財産権を享有することができない者は、その権利を有するのと同一の利益を受益者として享受することができない。」と規定されています。本来所有することができない権利を、受益権という誰でも所有できる権利に変化させて持たせる、そんなズルはダメですよということです。

例えば特許法には、「日本国内に住所または居所を有しない外国人は、一定の場合を除き、特許権その他特許に関する権利を享有することができない。」と規定されています。簡単に言うと、日本に住所の無い外国人は特許権を所有できないということです。これを回避しようと、特許権を信託財産とし、外国人を受益者にして信託を設定しても無効となります。

前述の通り、信託法9条で禁止されていますから、所有しているのは特許権ではなく受益権だ!という主張は通りません。

上記の通り信託の目的は、信託の方向性、ケースによってはその有効無効までも左右する非常に重要な要素です。しっかりと検討し、正しい目的を明確に定めるようにしましょう。

次回は、『民事信託の落とし穴 ②「信託の受託者がダメな事例」』をご紹介します。

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