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この記事は、相続税に関連した役立つ知識をQ&A方式で解説する記事の第二弾となります。
今回は、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」という2種類の生前贈与の仕組みをはじめ、「相続発生後にできる相続税対策」、「延納と物納」、「孫への相続」の5点についてご紹介します。
相続税対策として実戦的な知識をご紹介しますのでぜひご参考になさってください。今回も、図解や図表を使って、分かりやすく解説していきます。

この記事では、相続税対策に役立つ知識を、質問形式やシミュレーションを使って、分かりやすく解説します。
- この記事の監修者
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- MACミッドランド税理士法人
税理士 間野友長 - 相続専門の税理士として、これまで1,500件以上の相続案件を手掛けています。
中堅中小企業オーナー、不動産オーナーの相続・事業承継対策を得意とし、クライアントの要望に添った最適なプランの提案には定評があります。
- MACミッドランド税理士法人
目次
Q1.相続の前に贈与を受けた場合はどうなるの?
A1.相続発生7年以内の贈与財産は相続財産と見なされます
被相続人の死亡前7年以内に贈与(暦年課税制度)を受けた財産がある場合、贈与した財産は相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。
ただし、贈与時に収めた贈与税額は、相続税額から差し引くことができます。
簡単に言えば、「相続発生前7年以内の贈与については、贈与していてもしていなくても、贈与税と相続税の総額が変わらないようにする」という考え方です。

※死亡前3年超7年以内に行った贈与金額の総額から、100万円までは差し引ける
ただし、死亡前3年超7年以内の4年間については、贈与した総額の内、100万円までは相続財産に加算されません。
これは、令和5年度の税制改正により、生前贈与した財産が相続財産に加算される期間が、相続発生の「3年以内」から「7年以内」に延長されたことで、国民に与える影響が大きくならないようにする経過措置です。
なお、贈与税には年間110万円の基礎控除がありますが、被相続人の死亡前7年以内の贈与の場合は、110万円の基礎控除分も含めて相続財産に加算されるため、ご注意ください。
具体的には、「実際に贈与した正味の財産額から、死亡前3年超7年以内に行った贈与金額から100万円までを差し引いた金額」が、相続財産に加算されることになります。

出典:国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」
【 暦年贈与に関する耳よりな話 】
暦年贈与に関する耳よりな話として、「贈与した財産が相続財産に加算されない方法」について、ご紹介します。
「相続開始前7年以内の贈与財産は相続財産に加算される」という対象は、あくまでも相続や遺贈で財産を取得した人(相続税の課税対象者)であり、それ以外の人は対象ではありません。
例えば、法定相続人に該当しない場合の「孫」や「ひ孫」、「子の配偶者」などは対象になりません。
したがって、相続税対策としての生前贈与を行うのであれば、孫やひ孫などへの贈与が有効となります。
また、贈与税の基礎控除枠である110万円以内の金額を、毎年、孫やひ孫に生前贈与していけば、贈与税・相続税が非課税で財産を移していくことができます。
贈与税の非課税枠は、受贈者1人あたりで1枠であるため、例えば、孫3人に生前贈与をするのであれば、毎年330万円までは非課税で贈与することができます。
Q2.「相続時精算課税制度」とは、何ですか?
A2.相続前に財産の名義だけを子や孫に移せる制度です
「相続時精算課税制度」とは、贈与税を無税にする代わりに、贈与した財産を相続財産として扱い、相続税の課税対象とする制度となります。
贈与税を伴わず、相続前に財産の名義を変更できることから、アパートから得られる家賃の入金先を子に移したりすることができます。
相続時精算課税制度には、下記の特徴があります。
《 相続時精算課税制度の特徴 》
項 目 | 詳細内容 |
---|---|
対象限度額 | 2,500万円までの贈与額が控除され、贈与税がかかりません。その代わり、相続税の課税対象となります。 |
基礎控除 | 毎年110万円までは、贈与税はもちろん、相続税の課税財産にもならない控除枠があります。 |
贈与者の 年齢制限 |
贈与者は60歳以上である必要があります。 |
受贈者の 年齢制限 |
贈与者は18歳以上である必要があります。 |
選択式 | 贈与は、基本的に「暦年課税制度」で行われます。 自ら選択し、手続き(※)を行うことで、「相続時精算課税制度」に切り替えることができます。 |
撤回不可 | 一度「相続時精算課税制度」を選択すると、「暦年課税制度」に戻すことはできません。 |
補足事項 | Q1で解説した暦年課税制度とは異なり、被相続人の死亡前7年以内に贈与を受けた財産であっても、110万円の基礎控除部分は、相続財産に加算されません。 |
※住所を管轄する税務署長に、贈与税の申告書と併せて、相続時精算課税制度を選択する旨を記載した「選択届出書」を提出します。
提出期間は、贈与を受けた年の翌年2/1~3/15までの間です。
2-1.相続時精算課税制度の目的
「相続時精算課税制度」は、高齢化社会の進展を踏まえ、親または祖父母の保有する資産を子や孫に円滑に移転(生前贈与)させることで、資産の活用を促進させ、経済の活性化を図ることを目的に創設されました。
2-2.相続時精算課税制度の概要
「相続時精算課税制度」では、相続時に「贈与した財産」と「相続財産」を合算して相続税額を計算します。
贈与税の非課税枠である2,500万円までは、何回贈与しても贈与税はかからず、それを超えた金額については、一律20%の贈与税がかかります。
ただし、毎年110万円までの贈与については、贈与税はかからず、相続税もかかりません。
令和5年の税制改正により、年110万円の基礎控除が、新たに創設されたためです。

出典:国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」
【 相続時精算課税制度に関する耳よりな話 】
暦年贈与制度とは異なり、相続時精算課税制度の基礎控除110万円は、いかなるタイミングで贈与した場合でも相続財産には加算されないため、財産を非課税で継承したい場合には便利です。
また、暦年贈与で「受贈者(贈与を受けた側)が受け取った金額」が110万円を超えると贈与税が生じますが、相続時精算課税制度を併用することで、より多くの金額を非課税で贈与できます。
例えば、父が子に、暦年贈与で110万円を贈与し、母が同じ子に、相続時精算課税制度で110万円を贈与した場合、年間で総額220万円を非課税で生前贈与することができます。
ただし、相続時精算課税制度は複雑なため、税理士に相談のうえ、合理的な生前贈与のプランを設計することをお勧めします。
Q3.相続の発生後にできる相続税対策の方法はある?
A3.対策方法はありますが、効果は限定的です
相続税対策を行う前に相続が発生してしまった場合は、「3-1. 土地の評価額をチェックする」、「3-2. 遺産分割で評価を下げる」、「3-3. 納税方法を工夫する」といった方法で、相続税対策を行うことができます。
しかし、「相続対策は生前対策」と言われているように、相続発生後に行う相続税対策には限界があり、大きな効果は期待できません。
3-1.土地の評価額をチェックする
相続発生後にできる相続税対策のひとつは、土地の相続税評価額をチェックすることで、過剰な相続税を納めてしまわないようにすることです。
相続税における土地の評価は、市街化区域では「路線価×土地面積」で計算されます。(市街化調整区域では「固定資産税評価額×倍率」)
しかし、実際に土地の相続税評価額を算出する際には、これに各種の修正が加えられます。
例えば、不整形地や広大な土地、斜面がある土地、間口が狭い土地、奥行きが深い土地などは、相続税評価が下がりますので、確認しておく必要があります。
3-2.遺産分割で評価を下げる
相続発生後の相続税対策には、遺産分割を工夫することで、相続税を下げる方法もあります。
遺産分割とは、誰がどの財産を相続するかを決めることを言い、遺言で指定されない限りは相続人の希望が最も優先されます。
この遺産分割を、いかに相続税を安くするかを目的に行うのが、対策となります。
例えば、一筆の土地を一人が相続するのと比べ、土地を分割し何人かで相続する方が、土地の道路づけや地形などによっては、その土地の相続税評価額を低くすることができる場合があります。
また、「配偶者の税額軽減の特例」についても、配偶者の税額軽減の枠を目一杯利用するのか、それとも二次相続を見据えて法定相続分の金額にとどめるか等、いくつかの計画を想定したうえで、最も有利な分割方法を検討します。
3-3.納税方法を工夫する
納税方法を工夫することも、相続発生後にできる相続税対策になります。
相続税は、相続の発生から10ヵ月以内に、原則として現金で納税を行う必要がありますが、現金一括での納付が難しい場合は、分割して支払う「延納」という方法もあります。
また、現金ではなく不動産などで相続税を納税する「物納」の制度もありますが、様々な条件を満たす必要があるため、簡単には認められません。
「延納」と「物納」については、次章にて詳しく解説します。
Q4.相続税が払えない場合はどうするの?
A4.「延納」や「物納」という方法があります
相続税を現金で一括して納めることが難しい場合、相続税を分割で納税する「4-1.延納」や、相続財産そのもので納める「4-2.物納」という方法があります。
4-1.延納とは
延納とは、税務署に相続財産を担保として差し入れ、相続税を分割して納める方法です。
延納は、現金で一括して相続税を納付するのが困難とする事由がある場合に限り、一定の条件を満たせば可能となります。
延納できる期間は原則として5年以内ですが、相続財産のうち不動産等の割合が50%以上あるときは、その期間が10年から20年まで延長されます。
ただし、延納中は利子税がかかりますので、ご注意ください。
■延納の要件
- ・納税期限までに延納申請書、及び担保提供関係書類を提出すること
- ・相続税額が10万円を超え、金銭で納付することが困難であること
- ・必要な担保(不動産や国債など)を提供し、延納期間中は利子税を支払う
こと(延納税額が100万円以下、かつ、延納期間が3年以下の場合は担保が不要)
- 《 延納期間と利子税 》
-
延納期間と利子税の原則割合 50%未満 5年
(年1.2%~6.0%)相続財産のうちの不動産割合 50%以上~75%未満 10~20年
(年1.2%~5.4%)75%以上 10~20年
(年1.2%~5.4%)
4-2.物納とは
相続税を金銭で納付することが困難な場合は、相続財産そのものを納めることもできます。
これを「物納」と言い、次のような条件のときに認められます。
■物納の要件
- ・相続税を延納によっても金銭で納めることが難しい事由があり、かつ納付が困難な金額の範囲内であること
- ・申告期限内に物納申請書、及び物納手続関係書類を提出すること
- ・物納申請財産が定められた種類の財産で申請順位によっていること
- ・物納申請財産が物納に充てることのできる財産であること
■物納できる相続財産
物納できる財産は順位があり、第一順位の財産から物納財産になります。
なお、管理または処分に不適切な財産は認められません。
- 第一順位: ① 国債、地方債、上場株式等 ② 不動産、船舶
- 第二順位: ③ 非上場株式等
- 第三順位: ④ 動産
土地や建物といった不動産は、物納の第一順位であるため、優先して物納をすることができます。
ただし、どんな土地でも物納できるわけではありません。

また、物納による収納金額は相続税評価額となりますが、一般的に相続税評価額は、時価よりも低いことが多いため、不動産を売却して納税資金に充てた方が良い場合もあります。
Q5.子を飛び越えて孫に相続することはできるの?
A5.できますが、相続税が20%加算されます
子が亡くなっている状態で孫が相続することを代襲相続と言いますが、子が存命の場合であっても、子の世代を飛ばして孫に財産を相続することは可能です。
ただし、対象の孫を養子縁組するか遺言で孫を相続人に指定する必要があります。
また、子の世代を飛ばして孫に相続する場合、通常の1.2倍(20%加算)の相続税がかかりますので、注意が必要です。
5-1.相続税が20%加算されるケース
子の世代を飛ばして孫が相続するケース以外にも、配偶者と一親等の血縁者以外の人が相続した場合は、通常の相続税額に20%が加算されます。
ただし、子が死亡しているために孫が代襲相続する場合は、一親等である子の代わりとして扱われるため、相続税の加算対象にはなりません。

※血縁者は、本人から見た血縁関係(兄、妹等)で表記しています。
5-2.一代飛ばして相続するメリット・デメリット
子の世代を飛ばして孫に相続させるメリットとデメリットは、以下の通りです。
子の世代を飛ばして孫に相続させることで、相続税額は20%上昇するものの、相続を1回飛ばすことができるため、相続1回分の相続税を回避することができます。
《 子の世代を飛ばして孫に相続させるメリット・デメリット 》
メリット | デメリット |
---|---|
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相続税に関するQ&A② まとめ
以上、相続税対策に役立つ知識について、Q&A方式で解説しました。
相続財産を「暦年贈与制度」に基づき生前贈与する場合、相続発生間の7年以内に行った贈与財産は、相続財産に加算されるため、注意が必要でした。
だだし、これは法定相続人以外の人への贈与であれば適用されないため、孫などに計画的な生前贈与を行うことが有効です。
「相続時精算課税制度」については、贈与した財産が相続財産として扱われて相続税が課税される(相続時に相続税で精算される)制度でした。
令和5年の税制改正により、毎年110万円の基礎控除枠が創設され、生前贈与に利用しやすくなりましたので、効果的に活用しましょう。
相続発生後にできる相続税対策としては、土地の相続税評価額をチェックすることをはじめ、遺産分割や納税方法を工夫することを解説しました。
しかし、いずれの方法も効果は限定的ですので、相続税対策は生前に行うようにしましょう。
特に、土地活用でアパート経営を行うことによる相続税対策効果は非常に大きいため、おすすめの方法です。
孫を含む、「配偶者と一親等以外の血縁者」に財産を相続すると、該当する相続人にかかる相続税額が20%加算されることもご紹介しました。
この方法は、相続税が20%加算されることと引き換えに、本来は子の相続時にかかる相続税を回避できるため、結果的に得をするケースも少なくありません。
状況に応じて適切に活用するようにしましょう。
相続税のご心配をされている方にとって、お役に立てていただければ幸いです。
なお、相続税に関するQ&Aの第1弾の記事が気になる方は、下記をご覧ください。

この記事では、相続税対策に役立つ知識を、質問形式やシミュレーションを使って、分かりやすく解説します。
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